『魔空の迷宮』

『魔空の迷宮』(山田正紀)を読了。並行して読んでいる『読書会』で触れていたので、図書館で借りてみた。
半村良風の伝奇小説を期待したが、ものたりなかった。「聖堂騎士団」がどうしてそれほどの力を持っているのかとか、どうして「青山」なのかといったあたりの書き込みがもっとされていたほうがよかったのではないかと思う。文庫化されて残らなかったのがわかる。
そのほか、『世界は分けてもわからない』も2,3日前に読了。文章がうまいと思った。ベストセラーになったのもわかる気がする。後半の細胞の癌化のメカニズムを、実験結果の捏造事件で説明していくところなど。普通なら、メカニズムが解明されていく中でのエピソードのひとつとして書くようなところを、事件の経過をまず詳細に描いて、実際のメカニズムを巧みに説明していっていると思う。また、文章そのものも非常に文学的だとおもった。たとえば、エピローグの中の、

レースのカーテンが綾なして、ほんの瞬間作り出した何かを渦巻き文様と見なし、それをとどめたいと私は願った。渦巻文様は、動的な偶然が、ある一瞬作り出した、あやうい平衡である。それは本来的に、動的なものであり、そこに立ち止まることも、二度と同じことが起こることもない。

こんなふうに仕様書の前書きを書いてみたかった。